31(Thirty-one) Factory 北原 サエのブログ

文芸作品を創っています。

日本橋

久々に日本橋に行ったら、高層ビル街に変っていたので驚いた。日本橋には、母を連れて買い物に行ったのが最後ではなかったか。 当時、私は社長一人、社員数人の小さな会社で事務員をしていた。職場はマンションの一室で、私は事務の仕事の他に、部屋の清掃か…

爆弾蝉

アパートの外階段に、仰向けになって微動だにしない蝉がいた。 落蝉か? 夏の終わりでもないのに? もう死んだの? 不可解だったが、その日はそのままにしておいた。 翌日も蝉は同じ場所に仰向けになっていた。邪魔だから除けようと、蝉の翅を指で摘んだ瞬間…

2023年6月

壮烈なレインシャワーの洗礼を潜らなければ夏に会えない

短歌

冬彦も「冬のソナタ」も平成の彼方の夢のやさしい記憶

十二「冬の波」

六本木プラザビルが解体される。七十年代の初め頃、よく通ったビルだ。「ニコラス」というピザレストランが入っていた。広々として高級感のある店だったが値段は手頃だったのではないか。当時付き合っていた大学生の彼とよく行った。私は小海老の入ったピザ…

十一「ハンバーグの思い出」

豆腐ハンバーグをつくった。挽肉、玉ねぎ、豆腐、卵を捏ねて焼いたが、食べるとパサパサしておいしくない。何かが違う。そうだ、食パンが切れていたので入れなかった。ふわふわの食感を出すには食パンを入れないと。 子供の頃、木造平屋建ての昭和の家の台所…

十「柿の木」

庭のある昭和の古い木造の家が取り壊されて、ビルを建てるまでの間、駐車場になっていた。駐車場の隅には、庭にあった柿の木が一本残されていた。秋になると、たわわに実をつけた。近所の人が竿で柿の実を落として持ち去っていた。やがて、駐車場にビルが建…

九「アイスティー」

幼い頃、隣の家によく遊びに行った。隣の家は四人家族だった。両親と男の子と女の子の兄弟がいた。下の女の子は、私より五歳くらい年上だった。上のお兄さんは、私ともっと年が離れていたが、仲良くしてもらった。物静かでやさしい少年だった。 お母さまは色…

八「ワンピース」

ハチ公前広場のある渋谷駅前に、SUZUYAというブティックがあった。十代だった私は、放課後や休みの日に、級友たちとよく立ち寄った。店内には、若い女の子の好きそうな服や小物が所狭しと並んでいた。何を買ったという記憶もないので、見るだけで楽し…

七「ぶらんこ」

出会って三か月でプロポーズされた彼と、午後の公園で並んでぶらんこを漕いだ。 プロポーズは承諾したが、その先の未来に何があるのか予測がつかなかった。不確かな未来を暗示しているかのように、揺れるぶらんこから灰白色の空が見えた。 彼とは価値観が合…

六「郷愁の銀座」

数寄屋橋の不二家の並びに鰻屋があり、母と通った。銀座の街に、まだ路面電車が走っていた頃だ。働いて家計を支えていた母にとっても、それは月一度の贅沢だったのだろう。鰻丼に肝吸い、キャベツの塩揉みがついていた。鰻と肝吸いを祖母の土産に買って帰っ…

短歌

五十年後の未来知らない秋の日のオリンピックの空青かった

  五「クリスマスの思い出」

子供の頃、クリスマスにツリーを飾った。卓袱台のある畳の居間に、高さ五十センチくらいの綿の雪を被った緑色のツリーがあった。ツリーには、三角屋根の小さな家の形をした飾りがいくつもついていた。それぞれの家には、赤や緑のセロファンで作ったような窓…

  四「昭和の食卓」

昭和の食卓にあったもの。味の素、パンケース、バターケース。プラスチックの青い蓋の四角いパンケースに食パンが入っていた。バターも四角いのをそのままプラスチックのバタ―ケースに入れていた。オーブントースターなどなく、トースターの原型の二枚ずつ焼…

  三「昭和の暮らし」

昭和の畳の居間には卓袱台があって、箱型のモノクロテレビがあった。テレビの傍にはいつも、見たい番組を丸で囲った新聞の番組表があった。 明治生まれの祖母は、テレビで相撲を見るのが好きだった。ひいきの力士が勝つと、パチパチと手を叩いて喜んでいた。…

二「焼き芋売り」

昭和の寒い冬の夜、炬燵に入っていると、「焼きいも―、石焼きーいもー」という焼き芋売りの声が聞こえてくる。私は母にお金をもらい、家族の人数分の焼き芋を買いに行く。 車なんかじゃない、リヤカーだった。荷台に黒い小石がぎっしりあって、その中で芋が…

エッセー 昭和ノスタルジー 一「ウェスタンカーニバル」

いまは近代的なビルが建つ有楽町の一角に、かつて日劇という建物があり、ウェスタンカーニバルが開催されていた。 母と一緒にウェスタンカーニバルを見に行った記憶がある。ステージにいたのは、真家ひろみ、飯野おさみ、中谷良、あおい輝彦。元祖ジャニーズ…

短歌連作「昭和ノスタルジー」五十首

屋上の空は青くて空いていて、いくつもあった赤いアドバルーン 豆腐売る自転車通る夕焼けの街の通りにラッパ聞こえて リヤカーで石焼芋を売る声を聞いて表に出た寒い夜 エアコンのない六畳間「ぼーんぼん」柱時計の音が響いて 「たーけやー たけやさおだけ」…

「短歌の時間」題詠「草」入選歌

ちょっとまえオーストラリアの牧場で草食みし牛のハンバーグステーキ 東直子先生選

NHK短歌佳作秀歌入選歌

シグナルの変わる一瞬若き日は もう着られないたくさんの服 大辻隆弘先生選

NHK短歌入選歌

楽しそうに母は何度も話してた父とはじめて会った日のこと 大辻隆弘先生選

入選歌

すき焼きの湯気の向こうに在りし日の部屋の情景懐かしき顔 小島なお先生選

NHK短歌入選歌

紺鼠の空に宝石散りばめたような街の灯はじめてのパリ 佐佐木頼綱先生選

NHK短歌二席入選歌「映画」

長いながい映画のフィルム焼きつけた眼球ふたつ燃やす冬の日 東直子先生選

NHK短歌入選歌「身体」

「だいじょうぶ?」「回復してる?」物言わぬ壊れた身体に問いかけてみる 東直子先生選

NHK短歌入選歌

新しい手帳が並ぶ、私とは関係なしに月日は駆ける 佐伯裕子先生選

NHK短歌入選歌

引き出しの褪せたレシート思い出すあの頃の街、きみとの暮らし 佐伯裕子先生選

NHK短歌入選歌

涙など武器にはならず幾たびの恋を失くして知った私は 永田和宏先生選

NHK短歌入選歌

空っぽのコンビニ袋のこりおり きみと別れた雨の歩道に 大松達知先生選

NHK短歌入選歌「そして」

虫取り網、スクール水着手放した そして私は大人になった 大松達知先生選