31(Thirty-one) Factory 北原 サエのブログ

文芸作品を創っています。

十一「ハンバーグの思い出」

 豆腐ハンバーグをつくった。挽肉、玉ねぎ、豆腐、卵を捏ねて焼いたが、食べるとパサパサしておいしくない。何かが違う。そうだ、食パンが切れていたので入れなかった。ふわふわの食感を出すには食パンを入れないと。

 子供の頃、木造平屋建ての昭和の家の台所にはガスオーブンがあった。母はそのオーブンで、よくハンバーグを焼いていた。私に野菜を食べさせたかったのだろう。玉ねぎの他に、細かく切った人参やピーマンが混ざったハンバーグ。細かいことを気にしない豪快な母らしく、ちぎった食パンの耳がそのまま入っていた。 

 中学生になった私は、そのオーブンでクッキーを焼いた。グループサウンズが全盛の時代だった。ファンだったバンドの為に手作りの下手くそなケーキを焼いて楽屋に差し入れた。

 十七歳になった私は、父の援助で家を出てアパートで一人暮らしをした。一年後、家に戻ると、母屋は取り壊され駐車場になっていた。母屋にあった台所もオーブンも、跡形もなく無くなっていた。

 あのオーブンで母はハンバーグの他に何か作っただろうか? 鳥も焼かなかったし、菓子も焼かなかった。よく食卓に出た、砂糖と洋酒で味付けして丸ごと焼いた焼き林檎、あれはオーブンで作っていたのだろうか?

 令和の台所で、私はハンバーグの材料を捏ねている。玉ねぎの他に野菜は入れないが、食パンは必ず入れる。テフロンのフライパンで焼くハンバーグには、母のつくったハンバーグのように、ちぎったパンの耳がそのまま入っている。