日本橋
久々に日本橋に行ったら、高層ビル街に変っていたので驚いた。日本橋には、母を連れて買い物に行ったのが最後ではなかったか。
当時、私は社長一人、社員数人の小さな会社で事務員をしていた。職場はマンションの一室で、私は事務の仕事の他に、部屋の清掃から細かい雑用まで何でもやっていた。「助かるよ」と、社長さんは私を気に入ってくださっていた。取引先からもらった高級な菓子などを、社長さんからよくいただいた。ある時、取引先からもらったらしい三越の商品券をいただいた。
私は母を誘って三越に買い物に行った。いただいた商品券で、足が不自由になっていた母に、キャリーバッグと杖を買った。食堂で母にご馳走した。「きょうはいい日だった」と帰宅後、母は喜んでいた。
間もなく、私は退職したので、社長さんに御礼を言いそびれてしまった。「ありがとうございます。お陰様で母に親孝行できました」心の中で、社長さんにあの日の礼を何度も言っている。
当時、社長さんは六十代前半だった。いまでもお元気でいらっしゃるだろうか。あれから二十年の歳月が過ぎようとしている。