短歌連作「昭和ノスタルジー」五十首
屋上の空は青くて空いていて、いくつもあった赤いアドバルーン
豆腐売る自転車通る夕焼けの街の通りにラッパ聞こえて
リヤカーで石焼芋を売る声を聞いて表に出た寒い夜
エアコンのない六畳間「ぼーんぼん」柱時計の音が響いて
「たーけやー たけやさおだけ」リヤカーで物干し竿を売り歩く声
夏の日に水槽積んだリヤカーの「きんぎょーえ きんぎょ」声が弾んで
べっこうのフィルムの彼方 夏の午後、母の手製の梅酒に酔って
背の高い扇風機まわる 虫籠に西瓜を食べている甲虫
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ちり紙のてるてる坊主軒下に 三つ編みをした遠足の朝
見たい番組、丸で囲った新聞があったモノクロテレビの傍に
「シャボン玉ホリデー」見てた日曜日、スターダストという曲知った
細長いロウソクつけて暗闇で息をひそめた停電の夜
夏の夜バケツに水を汲み置いて花火で遊んだ星空のした
少女たちジャンケン遊びした道で「パイナツプルにチヨコレート」
空き缶の竹馬通る道端で面子で遊んだ少年たちは
夏の午後にトンボの群れが飛んでいた坂道のうえ遠い記憶の
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年の瀬に輪飾りつけたお供えを勉強机に飾った母は
米屋からとどいた白い伸し餅を四角く切った木の俎板で
大そうじ終えて炬燵でモノクロの紅白を見た晦の夜
真夜中に汲み置きをした若水で雑煮をつくった元旦の朝
「おめでとうございます」と母仕切り、お屠蘇を飲んだ朱塗りの杯で
黒豆に田作り、数の子、酢蓮根 縁起担ぎの並ぶ重箱
唐草をまとう獅子舞、玄関にあらわれ頭を噛まれた記憶
正月の澄み渡る空「コーンコン」羽根つきをする音が聞こえて
晴れ着着た近所の子たち輪になってカルタを取った畳のうえで
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墨の眉、目鼻をつけた雪だるま 大雪積る朝の街かど
真っ白な世界ひろがる坂道に「ゴーゴー」橇を滑らせる音
校庭で級友たちと雪合戦 小さな赤い手袋の手で
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はじめてのデイトは十四、映画見てクリームソーダを飲んで終った
ベルボトム、ミニスカートの似合う脚 小枝のように細かったころ
フォークソングブーム炸裂 若者はギター抱えた、猫も杓子も
ビートルズ旋風吹いて街かどにロングヘアーの青年増えて
放課後にセーラー服を脱ぎ捨ててジュリーに会いに駆けたアシベに
スタジオにライブ会場、GSを追い駆け少女の日々は明け暮れ
GSを追い駆ける女子バンド組み下手な演奏、学園祭で
ウェスタンカーニバルでは少女たち 黄色い歓声、最前列で
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薄暗い喫茶の隅でセーラムをくゆらせてみた大人のふりで
夕暮れに信濃町から乗る都電 影絵のような街路樹まどに
ジャズ喫茶、リズムに合わせ眼を閉じて脚を揺らしていた青年は
「風月堂」ファッションだった 新宿はサイケデリックな色があふれて
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「イカしてる」「はっぱふみふみ」「らりぱっぱ」死語となりゆく昭和の言葉
「青い影」流れる暗いフロアーできみと踊った夜更けのディスコ
背の高いロングヘアーの青年とドライブデイト白いセリカで
追憶の勉強部屋にいまもある「ひこうき雲」の白いアルバム
「イエスタデイ・ワンス・モア」聴きあふれ出た涙、二十歳の傷は深くて
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真夜中にひろげる便箋、切なさに青いインクの文字は滲んで
風呂帰りに十円玉を握りしめラブコールした赤い電話機
黒電話、コード延ばしてこっそりと深夜の部屋で彼と話した
スナックでカラオケ流行る 夜明けまでタクシー並ぶ街は眠らず
金銀の光あふれて眩くてバブルの花の盛りの街は