31(Thirty-one) Factory 北原 サエのブログ

文芸作品を創っています。

短歌連作「昭和ノスタルジー」五十首

屋上の空は青くて空いていて、いくつもあった赤いアドバルーン

 

豆腐売る自転車通る夕焼けの街の通りにラッパ聞こえて 

 

リヤカーで石焼芋を売る声を聞いて表に出た寒い夜 

 

エアコンのない六畳間「ぼーんぼん」柱時計の音が響いて 

 

「たーけやー たけやさおだけ」リヤカーで物干し竿を売り歩く声 

 

夏の日に水槽積んだリヤカーの「きんぎょーえ きんぎょ」声が弾んで 

 

べっこうのフィルムの彼方 夏の午後、母の手製の梅酒に酔って 

 

背の高い扇風機まわる 虫籠に西瓜を食べている甲虫 

 

            ♢      ♢      ♢

 

 ちり紙のてるてる坊主軒下に 三つ編みをした遠足の朝 

 

見たい番組、丸で囲った新聞があったモノクロテレビの傍に 

 

シャボン玉ホリデー」見てた日曜日、スターダストという曲知った 

 

細長いロウソクつけて暗闇で息をひそめた停電の夜 

 

夏の夜バケツに水を汲み置いて花火で遊んだ星空のした 

 

少女たちジャンケン遊びした道で「パイナツプルにチヨコレート」 

 

空き缶の竹馬通る道端で面子で遊んだ少年たちは 

 

夏の午後にトンボの群れが飛んでいた坂道のうえ遠い記憶の  

                     ♢       ♢       ♢ 

 

年の瀬に輪飾りつけたお供えを勉強机に飾った母は 

 

米屋からとどいた白い伸し餅を四角く切った木の俎板で 

 

大そうじ終えて炬燵でモノクロの紅白を見た晦の夜 

 

真夜中に汲み置きをした若水で雑煮をつくった元旦の朝 

 

「おめでとうございます」と母仕切り、お屠蘇を飲んだ朱塗りの杯で 

 

黒豆に田作り、数の子、酢蓮根 縁起担ぎの並ぶ重箱 

 

唐草をまとう獅子舞、玄関にあらわれ頭を噛まれた記憶 

 

正月の澄み渡る空「コーンコン」羽根つきをする音が聞こえて 

 

晴れ着着た近所の子たち輪になってカルタを取った畳のうえで 

           ♢       ♢       ♢

 

墨の眉、目鼻をつけた雪だるま 大雪積る朝の街かど 

 

真っ白な世界ひろがる坂道に「ゴーゴー」橇を滑らせる音 

 

校庭で級友たちと雪合戦 小さな赤い手袋の手で 

     

           ♢       ♢       ♢

      

はじめてのデイトは十四、映画見てクリームソーダを飲んで終った 

 

ベルボトム、ミニスカートの似合う脚 小枝のように細かったころ 

 

フォークソングブーム炸裂 若者はギター抱えた、猫も杓子も 

 

ビートルズ旋風吹いて街かどにロングヘアーの青年増えて 

 

放課後にセーラー服を脱ぎ捨ててジュリーに会いに駆けたアシベに 

 

スタジオにライブ会場、GSを追い駆け少女の日々は明け暮れ 

 

GSを追い駆ける女子バンド組み下手な演奏、学園祭で 

 

ウェスタンカーニバルでは少女たち 黄色い歓声、最前列で        

           ♢       ♢       ♢     

      

薄暗い喫茶の隅でセーラムをくゆらせてみた大人のふりで 

 

夕暮れに信濃町から乗る都電 影絵のような街路樹まどに 

 

ジャズ喫茶、リズムに合わせ眼を閉じて脚を揺らしていた青年は 

 

風月堂」ファッションだった 新宿はサイケデリックな色があふれて  

 

           ♢       ♢       ♢ 

 

 イカしてる」「はっぱふみふみ」「らりぱっぱ」死語となりゆく昭和の言葉 

 

「青い影」流れる暗いフロアーできみと踊った夜更けのディスコ 

 

背の高いロングヘアーの青年とドライブデイト白いセリカで 

 

追憶の勉強部屋にいまもある「ひこうき雲」の白いアルバム 

 

「イエスタデイ・ワンス・モア」聴きあふれ出た涙、二十歳の傷は深くて 

          

           ♢       ♢       ♢

 

真夜中にひろげる便箋、切なさに青いインクの文字は滲んで 

 

風呂帰りに十円玉を握りしめラブコールした赤い電話機 

 

黒電話、コード延ばしてこっそりと深夜の部屋で彼と話した 

 

スナックでカラオケ流行る 夜明けまでタクシー並ぶ街は眠らず 

 

金銀の光あふれて眩くてバブルの花の盛りの街は