2021-04-04 六「郷愁の銀座」 数寄屋橋の不二家の並びに鰻屋があり、母と通った。銀座の街に、まだ路面電車が走っていた頃だ。働いて家計を支えていた母にとっても、それは月一度の贅沢だったのだろう。鰻丼に肝吸い、キャベツの塩揉みがついていた。鰻と肝吸いを祖母の土産に買って帰った。 中学生になると、母と銀座に行くことは少なくなった。そして気がつくと、あの鰻屋はなくなっていたのだが。青い空にアドバルーン、路面電車が走っていた、郷愁の銀座の街に、あの鰻屋はいまもある。