31(Thirty-one) Factory 北原 サエのブログ

文芸作品を創っています。

  四「昭和の食卓」

 昭和の食卓にあったもの。味の素、パンケース、バターケース。プラスチックの青い蓋の四角いパンケースに食パンが入っていた。バターも四角いのをそのままプラスチックのバタ―ケースに入れていた。オーブントースターなどなく、トースターの原型の二枚ずつ焼くトースターで焼いて食べたのだろう。

 現代の街にあるような様々な種類のパンを売っている店もなかった。母に連れられて外出した時、デパートの食品売り場で、バターが入っているような狐色の小さなパンをひとつ買ってもらったことを覚えている。

 小学校の給食にはコッペパンが出た。小さなジャムがついていたような。給食にはアルミ製の椀に入った脱脂粉乳が必ずついていた。脱脂粉乳はまずくて嫌いだった。いまは貴重になっている鯨肉もよく給食に出た。

 街にはコンビニもなく、マクドナルドもなかった時代である。レジ袋も普及していなくて、買い物かごが活躍していた。「お買い物に行ってきますね」そう言って、祖母はよくビニール編みのような買い物かごを下げて出かけた。

 夕方になると、肉屋の店先から、カツとコロッケを揚げる匂いが漂ってきた。経木に包まれた揚げたてのカツとコロッケを買って帰り、家族の夕食にした。

 スーパーではない食品を売る小さな店があって、卵をよく買いに行った。ビニールパックに入っていないばら売りの卵だった。新聞紙の袋のようなもので渡された。

 揚げたてのカツとコロッケを売る小さな肉屋は、平成まで営業を続けていたが、時代の流れに居酒屋に代わり、遂には肉屋の入っていたビル自体が取り壊されてしまった。

 夕刻に幾度となく肉屋に買いに行った、夕食に家族で食べた、あの揚げたてのカツとコロッケの味はもう思い出の中にしかない。