31(Thirty-one) Factory 北原 サエのブログ

文芸作品を創っています。

  五「クリスマスの思い出」

 子供の頃、クリスマスにツリーを飾った。卓袱台のある畳の居間に、高さ五十センチくらいの綿の雪を被った緑色のツリーがあった。ツリーには、三角屋根の小さな家の形をした飾りがいくつもついていた。それぞれの家には、赤や緑のセロファンで作ったような窓があった。

 北欧の街はこんななのかな? 小さな飾りの家々を見て、行ったことのない北欧の街に思いを馳せた。

 クリスマスにケーキを食べた記憶はないが、朝起きると、部屋に吊り下げた靴下の中に、キャンディなどの菓子が入っていた。母が仕込んだものに違いなかった。幼い私は「サンタからのプレゼント」だと思っただろうか?

 中学生になってからは、部屋にツリーを飾った記憶がない。あのツリーはいつの間にか家からなくなってしまった。母は夕方から割烹料理屋に働きに行っていた。家は貧しかった。

 私が二十代の頃、クリスマスになると、母は仕事帰りに、安売りされている売れ残りのクリスマスケーキを買って来た。私はそれを食べた。

 ある年のクリスマスの夜、仕事帰りに、母は私にプレゼントを買って来た。ゆとりのない財布から買ったことがわかる赤い色のマフラー。侘しくて嫌だった。

 

 時は流れて、平成のクリスマスの夜。コンビニに行くと、二個ずつパックに入ったクリスマスケーキが棚にあった。私はそれを買って帰った。いまはもう働いていない年老いた母のために。