二「焼き芋売り」
昭和の寒い冬の夜、炬燵に入っていると、「焼きいも―、石焼きーいもー」という焼き芋売りの声が聞こえてくる。私は母にお金をもらい、家族の人数分の焼き芋を買いに行く。
車なんかじゃない、リヤカーだった。荷台に黒い小石がぎっしりあって、その中で芋が焼けていた。新聞紙に包まれた温かい焼き芋を持ち帰った。黄色くて甘い、ほくほくとした芋にバターをつけて食べた記憶がある。
焼き芋売りがトラックになってからは買った記憶がない。そして、いつしか「焼きいも―、石焼きーいもー」という、あの懐かしい売り声も聞こえなくなった。昭和の彼方に消えた焼き芋売りのリヤカー。私の街に戻って来ることはもうない。