七「ぶらんこ」
出会って三か月でプロポーズされた彼と、午後の公園で並んでぶらんこを漕いだ。
プロポーズは承諾したが、その先の未来に何があるのか予測がつかなかった。不確かな未来を暗示しているかのように、揺れるぶらんこから灰白色の空が見えた。
彼とは価値観が合わなかった。数か月後に別れた。彼は私と別れて間もなく、職場の女性と結婚し、子供ができたと知人から聞いた。
よかったと思った。私を愛していた、いい人だったのに、別れを言い出して無理やり別れたのは私の方だった。彼を傷つけたと思っていた。
昭和から平成、令和へと月日は流れるように過ぎた。昭和のあの日、別れた彼とぶらんこを漕いだ公園へは、それから何度か行った。ぶらんこに乗ることはなかったが、あの日のことを思い出した。数年おきにその公園の前を通る度、ぶらんこがまだあることを確認したのではなかったか?
令和のある日、数年ぶりにその公園を訪れると、ぶらんこは撤去されてなかった。ぶらんこがあった場所には金属製のベンチが二つ置かれていた。時が消し去っていた。
何十年も経ったのだ、当然だろう。そう思おうとしたが……。
ぶらんこも、並んでぶらんこを漕いだ若い二人も、揺れるぶらんこから見た灰白色の空も跡形もなく消し去ってしまった、時の非情さに少なからぬショックを受けた。ぶらんこがあった場所に、私はしばらく佇んだ。