十年も出番なかった物置のシャベル登場 大雪の朝 伊藤一彦先生選
山の端に沈まぬ夕日どうしても消せない携帯番号のあり 伊藤一彦先生選
不意に聞く別れのことば冬の夜、窓のレースのカーテン寒し 坂井修一先生選
焔白い微熱を秘めて熟さない恋に似ている冬のトマトは 坂井修一先生選
黄ばみたる紙うらおもてに細かい字、祖父の手紙に昭和のありて 小島なお先生選
青空にたしかにあったアドバルーン路面電車の走る街には 小島なお先生選
のぼり坂きつくなるとき老い人は静かに去りゆく坂多き街 栗木京子先生選
思い出の特等席にいつもあるきみと出会った雪の通学路 坂井修一先生選
母を捨てるような気がした五十年使いし本棚ゴミにだすとき 小池光先生選
生まれたるスマホの林 文庫本読むひと消えた通勤電車 佐伯裕子先生選
独居せる友逝きし日は日曜と聞いてよけいに悲しくなりぬ 小島なお先生選
ベランダの万年青の鉢は知っている四半世紀の家の歴史を 小池光先生選